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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)9108号 判決 1992年4月24日

主文

一  被告は

1  原告甲野太郎に対し、別紙物件目録記載一、三、四及び七の各土地につき、

2  原告甲野一郎に対し、別紙物件目録記載二、五及び九の各土地の共有持分八六五五四二一五〇分の四六三一一二五四三につき、

3  原告甲野花子に対し、別紙物件目録記載二、五及び九の各土地の共有持分八六五五四二一五〇分の四〇二四二九六〇七につき、

4  原告丙川松夫に対し、別紙物件目録記載六、八及び一〇の各土地の共有持分八六五五四二一五〇分の二一三八一七二六八につき、

5  原告丙川竹子に対し、別紙物件目録記載六、八及び一〇の各土地の共有持分八六五五四二一五〇分の六五一七二四八八二につき、

それぞれ付されている大阪法務局東住吉出張所平成元年四月三日受付第二五七号甲野五郎持分抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求の趣旨

主文同旨

第二  事実の概要

次の事実は、土地の分筆経緯の点(三1)を除き、当事者間に争いがなく、右土地の分筆経緯については、土地登記簿謄本である《証拠略》から明らかである。

一  所有権の存在

1  原告甲野太郎は別紙物件目録記載一、三、四及び七の各不動産を所有し、かつ、その旨の登記を有している。

2  原告甲野一郎は別紙物件目録記載二、五及び九の各不動産につき、いずれも共有持分八六五五四二一五〇分の四六三一一二五四三を、また、原告甲野花子は右記載の各不動産につき、いずれも共有持分八六五五四二一五〇分の四〇二四二九六〇七を、

それぞれ有し、かつ、その旨の登記を有している。

3  原告丙川松夫は別紙物件目録記載六、八及び一〇の不動産につき、いずれも共有持分八六五五四二一五〇分の二一三八一七二六八を、

また、原告丙川竹子は右記載の各不動産につき、いずれも共有持分八六五五四二一五〇分の六五一七二四八八二を、

それぞれ有し、かつ、その旨の登記を有している。

二  抵当権の存在

被告は別紙物件目録記載の一乃至一〇の各不動産につき、いずれも次の抵当権設定登記(以下、「本件抵当権設定登記」というのは、これを指す。)を有している。

大阪法務局丁原出張所平成元年四月三日

受付第二五七号

抵当権設定登記

三  本件抵当権設定登記の付された経緯

1  分筆の経緯

別紙物件目録記載一乃至一〇の土地は、いずれも、大阪市《中略》二六八番二〇七二平方メートルの土地(以下、「旧二六八番の土地」という。)から分筆されたものである。

即ち、旧二六八番の土地は、昭和五一年三月三日、二六八番一、同番二に分筆され、次いで、昭和六三年二月四日、二六八番二の土地から同番三の土地が分筆された。

その後、後記2記載の共有物分割訴訟の判決が確定した結果、甲野五郎(以下、「五郎」という。)に分割される分として、平成二年八月一三日、二六八番一の土地から二六八番四の土地が新しく分筆された。

その後、五郎を除く原告らを含む共有者間で、分割協議がなされた結果、二六八番一乃至三の土地から二六八番五乃至一一の各土地が新たに分筆されるに至つた。

2  共有分割訴訟及び被告会社の補助参加の経緯

(一) 旧二六八番の土地は、原告丙川松夫を除く本件原告ら四名(以下、「本件原告ら四名」というのはこれを指す。)及び五郎を含む合計一三名の共有であつた。

(二) 同土地について売却問題が生じたことから、共有者間で共有物分割協議をしたが、共有者の一人である五郎がこれに反対したため、五郎を除く共有者一二名が五郎を被告として、大阪地方裁判所に共有物分割訴訟を提起した(同庁昭和六一年(ワ)第四七一五号)。

(なお、訴訟提起当時は、旧二六八番の土地は二六八番一と同番二に分筆されていたが、訴訟係属後の昭和六三年二月四日に同番二から更に三番が分筆された。)

(三) ところで、右事件においては、被告五郎のみならず、その義理の妹である乙山秋子(以下、「秋子」という。)、及び同女の実弟である乙山春夫(以下、「春夫」という。)が被告関係者として口頭弁論期日や和解期日に事実上出席していた。

そして、右事件の係属中の平成元年四月三日、春夫は、当時甲野五郎が有していた二六八番一乃至三の土地についての共有持分について、春夫を抵当権者とする大阪法務局丁原出張所平成元年四月三日受付第二五七号をもつて次の内容の抵当権設定登記手続をした。

原 因 昭和五九年一二月二五日金銭消費貸借

平成元年四月一日設定

債権額 金九八〇万円

利 息 無利息

損害金 年五・四七五%

(四) その後、平成元年四月一〇日受付第二一一五号をもつて、被告会社に、同月五日付債権譲渡を理由として、右抵当権移転の付記登記手続がなされた。

(五) 右抵当権設定登記及びその移転登記を経由した後、被告会社は前記訴訟に五郎の補助参加人として補助参加の申出をし、これを認める裁判があつた後の口頭弁論には、秋子が被告会社の代表者として法廷に出頭したのである。

(六) ところで、前記訴訟は平成元年一一月二一日に判決の言渡がなされ、その後、原告・被告・補助参加人のいずれからも控訴の申立てがなく、同年一二月八日に確定した(以下、右訴訟を「本件共有物分割訴訟」ともいう。)。

第三  原告らの本訴請求の根拠

一  被告は共有物分割訴訟に補助参加したのであり、現実に前記訴訟の口頭弁論に出廷し、かつ、判決が出た後も、その内容に不服があれば、補助参加人としての独自の立場において、控訴することが可能な地位にありながら、これをしなかつた。

従つて、被告は民法第二六〇条第一項の分割に参加をしたというべきであり、同条二項に基づき、原告らは前記判決に基づく分割の結果を被告に主張することができるというべきである。即ち、五郎の持分に設定された被告の抵当権設定登記は、右判決により五郎の共有持分が二六八番の四の土地に集中したことに伴い、同土地に集中するのであり、その他の土地に残存する被告の抵当権設定登記については、抹消されるべきである。

二  なお、共有持分上に設定された抵当権は、分割された土地に当然に集中・移転するものではないとの判例がある(大審院昭和一七年四月二四日判決、民集二一巻四四七頁)。同判決の理由の要旨は次のとおりである。

「共有物分割前其ノ持分ニ付設定シタル抵当権カ分割ノ結果抵当権設定者カ分割ニ因リ取得シタル部分ニノミ当然集中スヘキモノトセハ分割カ正当ニ行ワレタル場合ニ於テハ他ノ共有者及抵当権者ノ為実際上極メテ便宜ニシテ且公平ヲ欠クモノニ非スト雖凡ソ共有物ノ分割ハ抵当権者カ其ノ分割ニ参加スルコトヲ請求セサル限リ其ノ不知ノ間ニ自由ニ為シ得ヘキノミナラス分割カ正当ニ行ハレス例ヘハ其ノ持分ニ付抵当権ヲ設定シタル者カ故意ニ持分ノ割合以下ノ現物ヲ取得シ以テ抵当権者ヲ害スルカ如キ行為ヲ為ス虞ナキニ非サレハナリ」

ところで、持分上の抵当権を分割地に集中・移転することを認めない理由として、右判決が挙げているのは、抵当権者が知らない間に不当な分割が行われた場合に、抵当権を分割地に集中・移転するとすれば、当該抵当権者にとつて不利益を押しつけるものになるということにある。特に、抵当権の設定された持分について不利益な分割地が割り当てられた場合、抵当権者は不利益な結果を甘受せざるをえなくなるというものである。

しかし、右判決も述べるように、分割が正当に行われた場合には、持分上の抵当権を分割地に集中・移転することは「実際上、極メテ便宜カツ公平」なものであつて、なんらこれを否定すべきものではない。

三  本件についていえば、

1  被告会社は分割訴訟の提起を知り、これに参加する意図で本件抵当権を設定したこと、

2  現実に、被告会社は補助参加の申出をし、口頭弁論にも出席していること、

3  分割内容は訴訟における鑑定の結果に基づくものであること、

4  被告会社は、右判決に補助参加人として、不服申立のできる立場にあつたにもかかわらず、控訴の申立をしなかつたこと、

等の事実が存在するのである。

これらの事実からすれば、右判決による分割の公平さは充分に担保され、この結果を被告に甘受させても何ら不利益はないというべきである。

四  従つて、被告が五郎の持分に設定した抵当権設定登記は、五郎の分割地に特定・集中するべきものであつて、右設定登記とはなんら関係のない他の共有者に分割された土地に残存する抵当権登記は分割により抹消されるべきである。

第四  原告らの請求の根拠に対する被告の反論

一  共有持分上に設定された抵当権は分割された土地に当然に集中・移転するものではない、との大審院判決が存在する(大審院昭和一七年四月二四日判決・民集二一巻四四七頁)。

その理は、当事者の合意による分割と裁判による分割を別異に解すべき実定法上の根拠はないから、本件についても、妥当するものというべきである。

二  原告は、被告会社が共有物分割の裁判に補助参加したことから、共有物分割の場合には抵当権は分割された土地に当然に集中・移転すると解すべきであると主張するが、そもそも補助参加とは被参加人を勝訴させるべく他人の訴訟に参加するものであり、その権能は被参加人に対する従属的地位に立つという観点からの制約を受けているのであるから、共有物分割訴訟に持分抵当権者が補助参加したからといつて、共有物分割の場合に抵当権は分割された土地に当然に集中・移転するという理由にはならないというべきである。

三  また、共有物たる土地が一体であるとき、換言すれば、一個の物であるときの換価価値は、共有物が分割された後の換価価値の総和と等しいわけではなく、通常は一体であるときの方が換価価値が高いのである。

してみれば、共有物分割の場合に、抵当権は分割された土地に当然に集中・移転するとしたときは、価値の総和に対する割合としての不利益は抵当権者にないと仮にしても、抵当権者が把握する価値は減少し、抵当権者は不利益を受けざるを得ないものである。

本件の共有物分割においても、被告会社の抵当権が分割後の五郎の所有地に集中・移転するとした場合に、不利益がないとは到底いえないものである。

第五  本件の争点及びそれに対する判断

本件争点は、五郎との間の本件共有物分割訴訟の分割の判決により本件抵当権がその抵当権設定者である五郎の取得部分に集中したか否かにあるので、以下、その点について判断する。

一  共有は各共有者が共有物の全部について持分権を有している関係にあること、並びに、各共有者は他の共有者が分割によつて取得した部分について、その持分に応じ、売主と同じ担保責任を負担するとしている民法二六一条の法意に照らすと、その共有関係を終了させるための現物分割がなされたときは、それが共有者間の協議によるものであれ、共有物分割の裁判によるものであれ、共有物分割の効力としては、各共有者はそれぞれが分割によつて取得する部分について、持分譲渡を受け、それにより、各自が分割によつて取得した部分につき独立した所有権を取得するものであり、遺産分割による共有関係の終了のように遡及効についての条文(民法九〇九条)がない以上、共有物分割の効果は遡及するものではないと解される。

そうすると、分割前に共有者の一人がその持分の上に担保権を設定しているときは、その共有物について分割がなされても、その設定された担保権は依然として持分の割合において共有物全部の上に存在するものというべく、従つて、担保権を設定した持分権者が共有物の一部を取得したときは、その者が取得した部分及び他の共有者の取得した部分のすべてについて、担保権設定時の持分割合に応じての持分権がなお存続し、その持分につき担保権が存在するのであり、たとえ、担保権者がその分割協議に参加し、分割訴訟に補助参加したとしても、担保権者の承諾がないかぎり、担保権設定者が現物分割により取得した部分に担保権が集中すると解することはできないといわなければならない。

二  しかしながら、当事者間に争いのない事実並びに《証拠略》によれば、本件については、次のような特別の事情が認められる。即ち、

一  旧二六八番の土地は、亡甲野松太郎が所有していたが、同人の死亡(昭和三四年一〇月四日)により甲野竹太郎ら八名が相続し、次いで、相続人の甲野梅太郎及び甲野竹太郎について相続が開始し、昭和五五年九月一八日には本件原告ら四名及び五郎を含む一三名の共有となつた(なお、旧二六八番の土地は昭和五一年三月三日、同番の一と同番の二に分筆され、次いで、昭和六三年二月四日、右二六八番の二から同番の三が分筆されたが、以下、それらを併せて「共有地」という。)。

2 右共有地は、大阪都市計画事業《中略》地区土地区画整理事業の対象土地であつたため、昭和五五年に仮換地として大阪市《中略》工区五〇五-七-二外三区画の土地が指定され、共有地は既に区画整理事業が行われ、その区画・形状に変更が加えられていた。

3 ところで、共有地の分割について、共有者の五郎と本件原告ら四名を含む一二名との間で協議が整わなかつたので、昭和六一年、本件原告ら四名を含む一二名が五郎を被告として、右土地の現物分割を求める訴えを提起した(大阪地方裁判所昭和六一年ワ第四七一五号)が、同訴訟はいずれの当事者も実際には仮換地についての分割を念頭においたものであり、共有地の現物分割そのものを期待していたものではなかつた。

4 右訴訟が終結間近になつた平成元年四月一日、五郎は、その義理の妹(秋子)の実弟である春夫との間で、同人から昭和五九年一二月二五日に借受けたという九八〇万円の金銭消費貸借債務を被担保債権として、共有地について五郎の有する持分につき、抵当権設定契約を締結し、平成元年四月三日、その旨を本件抵当権設定登記手続をし、更に、同月一〇日、春夫から秋子が取締役をしている被告会社に債権譲渡を原因とする右抵当権移転の付記登記手続がなされ、同月二四日、被告会社は右分割訴訟の被告である五郎のための補助参加の申立てをし、同月七月一八日の第二六回の最終口頭弁論期日に秋子が代表者として出頭して弁論をした。なお、右分割訴訟の判決は、平成元年一一月二一日に言渡され、控訴の申立てはなく、同年一二月八日に確定した。

5 右分割訴訟の判決は、分割を求めている共有地については既に仮換地の指定があり、区画整理事業が順調に終了すれば従前地に代わる換地は仮換地に指定されることが多いこと、並びに、従前地である共有地は既に区画整理事業が行われ、その区画・形状に変更が加えられて道路となつており、その土地の範囲と地形は公図によらなければ特定できない状況にあること等から、分割の判断においては、先ず仮換地の使用範囲を決定し、その結果に対応して、共有地につき、図上分割する方法により分割するとし、鑑定結果及び仮換地の現実の使用状況、共有者各人の持分の経済的価値を基に、位置的・地形的に各使用収益者にとつて最も利用価値が高くなるように、仮換地の使用範囲を指定したうえ、それに対応して共有地の図上分割を判示し、確定した同判決に従い、五郎に分割された分として、二六八番の二から同番の四の土地の分筆登記手続がなされ、それぞれ分割による持分移転の登記手続がなされた。

以上の事実が認められる。

三  右認定の事実よりすれば、本件抵当権の設定にあたつては、春夫はもとより被告会社も、その設定の対象である共有地につき本件共有物分割訴訟が継続し、同訴訟は既に二十数回に及ぶ弁論期日が重ねられ、五郎と他の当事者との間の対立が容易に和解で解決できる状態になく、早晩分割の裁判がなされることを承知していたし、また、共有地について仮換地指定があり、当時の共有地及び仮換地の土地の現況についても知悉していたと認められること、並びに、右抵当権の設定が本件共有物分割訴訟の判決による分割の効果を実質的に害する目的でなされたものとまで認めることはできないこと、等からすると、春夫も被告会社も、従前地である共有地について有する五郎の持分権そのものというよりは、右分割訴訟の判決の結果、五郎に分割される土地部分に重大な関心があり究極的には五郎とともに右分割訴訟の結果に服することを前提として、右判決により五郎の分割による取得部分が確定したときには本件抵当権もその部分に集中することを黙示の条件として本件抵当権設定契約に及んだものと見るのが相当である。

四  そうすると、本件共有物分割訴訟の判決の確定により本件抵当権は五郎の取得部分に集中したことになるので、原告らは、その有する持分権に基づき、被告に対し、本件抵当権設定の登記の抹消登記手続を求めることができるというべきである。

よつて、原告らの請求は理由があるのでこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 海保 寛)

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